「産業医選任を考える」から届出るまで— 4つのステップ

人事・総務の担当者が、産業医の選任を考え始めたときに、最初に必要となる情報をまとめたシリーズです。産業医選任の進め方を、4つのステップに分けて解説します。第1回は「選任前」のステップ。事業場ごとの人数の数え方、産業医の役割、50人未満の会社でできることを扱います。

この記事で分かること

  • 産業医選任は4つのステップで進む(選任前・選任決定・届出準備・届出と届出後)
  • 選任は会社単位ではなく「事業場単位」で確認する
  • 50人未満でも、健康管理の仕組みは無理なく整えられる

産業医選任を、4つのステップに分けて解説する

産業医選任は、医師を探して契約するだけの手続きではありません。「選任前」「選任決定」「届出準備」「届出と届出後」の4つのステップに分けて解説します。下図は、各ステップで何をするかを一枚で示したものです。

シリーズ全体の流れとよくある質問は「産業医選任 完全ガイド」にまとめています。

ステップ1 で確認すること

「会社単位」ではなく「事業場単位」で人数を確認する1

産業医選任で誤解が多いのは、「会社全体で50人を超えたら、産業医を1人選任すればよい」という考え方です。労働安全衛生法の手続きでは、会社全体ではなく、原則として事業場ごとに確認します。事業場とは、東京労働局の説明では「企業全体ではなく、支店・営業所など、物理的・組織的にひとまとまりのところ」と書かれています。

例で考える

たとえば、会社全体で120人いる企業で、本社40人・支店30人・店舗30人・工場20人という構成のとき、どの拠点も50人未満です。会社全体では120人を超えていますが、各拠点が直ちに選任義務の対象になるとは限りません。一方、1つの工場で50人以上が常に勤務している場合は、その工場という事業場で選任義務を確認する必要があります。

「常時使用する労働者」とは誰のことか2

事業場の人数を数えるときに迷うのが、「派遣の人は含めるのか」「アルバイトはどう数えるのか」という点です。労働安全衛生法でいう「常時使用する労働者」は、雇用形態ごとに扱いが異なります。下表は、選任義務の人数を数えるときの一般的な目安です。

雇用形態ごとの考え方(一般的な目安)

1

正社員(無期雇用フルタイム)常時使用する労働者として数える。

2

契約社員(有期雇用フルタイム)契約期間が1か月以上、または所定労働日数が1か月10日以上など、継続的に働く場合は数える。

3

パート・アルバイト所定労働日数が継続的にあり、雇用関係が長期にわたる場合は数える。短日数の単発勤務は数えない。

4

派遣労働者派遣元と派遣先で安全衛生上の責任が分かれる。健診・面接指導の多くは派遣元、職場の安全配慮は派遣先。人数算定は原則として派遣元の労働者として扱う。

5

出向者在籍出向の場合、賃金支払や指揮命令の実態に応じて、出向元と出向先のどちらで数えるかが変わる。判断に迷うときは所轄労基署に確認する。

業務委託・フリーランス「労働者」ではないため、原則として人数には含めない。ただし実態が雇用に近い場合は、労働者として扱われることがある。

判断に迷うとき

「常時使用する労働者」の範囲は、雇用形態だけでなく、実際の働き方によって変わります。雇用契約書の形式だけで判断せず、実態を確認することが大切です。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署に問い合わせるか、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。

そもそもなぜ「50人」なのか?

50人という数字は、「49人なら健康管理が不要」「50人になった瞬間に健康リスクが急に変わる」という意味ではありません。産業医、衛生管理者、衛生委員会など、事業場として安全衛生の体制を整えるための法令上の一つの基準です。

同じ「50人」を境にして、次の3つも合わせて必要になります。事業場ごとに、それぞれの届出と運用を準備します。

50人以上の事業場で求められる主な体制

  • 産業医の選任(労働安全衛生法 第13条)
  • 衛生管理者の選任(同 第12条)
  • 衛生委員会の毎月の開催(同 第18条)
  • 定期健康診断結果報告書の労基署への提出
  • ストレスチェックの年1回実施(同 第66条の10)

50人未満の会社でできること

常時50人未満の事業場では、産業医の選任は法律上必要ありません。それでも、健康診断、長時間労働、メンタル不調への対応がいらないわけではありません。50人未満の時期は、会社の規模に合った健康管理の仕組みを、無理のないペースで整える時期でもあります。

無料で使える公的支援

地域産業保健センターでは、保健指導や、長時間労働者への医師の面接指導が無料で受けられる場合があります。事前申込が必要なので、所在地の労働局や労基署で利用案内を確認してください。

まず始める3つのこと

50人未満でできる「最初の3歩」

  • 1健康診断のあとに、結果を確認する担当者を決める
  • 2長時間労働やメンタル不調があったときの相談ルートを決める
  • 3地域産業保健センター・産業保健総合支援センターを使えるか確認する

産業医はどんな役割の人?

選任を考え始める段階で、人事担当者がまず知っておきたいのは、産業医が「治療する医師」ではないということです。産業医は、職場で働く人の健康と就業について、医学的な観点から会社に意見を述べる役割です(労働安全衛生法第13条)。

産業医の主な仕事

労働安全衛生規則第14条で定められた産業医の職務

  • 健康診断、面接指導の実施と、結果に基づく就業上の措置
  • 作業環境の維持・管理、作業の管理
  • 労働者の健康管理
  • 健康教育、健康相談、その他の健康保持増進措置
  • 衛生教育
  • 労働者の健康障害の原因調査、再発防止

つまり産業医は、職場で働く人の健康と仕事の続けやすさを、医学的な目線でつなぐ役割です。最終的な人事の判断(配置、休職、復職、勤務条件など)は、産業医の意見を踏まえて会社が行います。

次回(ステップ2)

次回は、ステップ2「選任決定」を扱います。産業医の候補をどう探すか、資格の確認、専属と非専属の違い、契約条件、そして事由発生から14日以内に決める選任日まで、人事担当者が判断する項目を整理します。

本記事のご利用上の注意

本記事は、厚生労働省・労働局等の公表情報をもとに、人事・総務担当者向けに実務上の確認ポイントを整理したものです。実際の届出要否、記入方法、対象労働者の範囲は、事業場の所在地、規模、業種、作業内容等により異なる場合があります。実務対応にあたっては、最新資料と所轄労働基準監督署の案内をご確認ください。

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