入社1ヶ月、糸が切れる前に。
入社から1ヶ月。新入社員にとっての4月は「初めて」の連続だった。緊張と空元気で乗り切ってきた糸が、ゴールデンウィークの間に、ふっと緩む。緩んだ瞬間に、疲れがどっと出る。これは毎年5月に多くの新入社員に起きていることだ。「5月病」と俗に呼ばれるが、医学的にはこの呼称はない。診断名のあるなしよりも先に、知っておきたいことがある。
この記事で分かること
- ✓入社1ヶ月後の不調は適応の途中で誰にでも起きる。失敗ではなく、当たり前のプロセス
- ✓緊張と空元気は5月に切れる。最も疲労しているのは脳。回復は休みでしか取れない
- ✓相談スタイル4タイプ(桃太郎・シンデレラ・人魚姫・一寸法師)に優劣はない。GW中に「最初の一言」を準備する
期待と現実のギャップは、計画通りにやってくる
新入社員が入社前に抱いていた「期待と希望」が、配属後の現実と一致することは、ほとんどない。これは「期待が高すぎた」のでも「現実がひどすぎた」のでもない。新しい環境に入る人間が必ず通る、当たり前のプロセスである。心理学では「リアリティ・ショック」と呼ばれる現象であり、医療職や教職を中心に多くの実証研究がある。
入社前の「働く」のイメージは、説明会・面接・先輩社員の話・SNS等から組み立てられている。しかし、実際の職場には、説明会では語られなかったものがある。理不尽に見える指示、上司の機嫌、雑用の多さ、人間関係の温度差、自分の力不足、想定外の評価。これらが、入社後数週間で次々と目に入ってくる。
期待と現実のギャップそのものは、避けようがない。重要なのは、ギャップが見えること自体は失敗ではないという認識だ。むしろ、ギャップが見えるようになったということは、その人が現実を直視し始めたという証拠でもある。
緊張と空元気は、5月に切れる
4月の新入社員の表情を思い出してほしい。挨拶の声は大きく、メモを取る手は丁寧で、わからないことがあっても「大丈夫です」と答えていた。これは「やる気がある」ようにも見えるが、その多くは緊張と空元気で支えられた状態である。
緊張と空元気は、短期間であれば持続する。しかし、人間の身体はそれを長く続けられるようにはできていない。連休に入って気が緩んだ瞬間、あるいは連休が明けて再び職場に向かう朝、それまで持っていた糸がぷつりと切れる。
このとき、最も疲労しているのは脳だ。
新しい環境では、脳は常時フル稼働している。誰の話を聞き、誰の指示を優先し、どの場面でどう振る舞うか。新人にとっての一日は、ベテランの一日とは比較にならない処理量を要求する。脳の疲労は、自覚されにくい。「疲れた」と感じる前に、判断力・集中力・気分の安定性が落ちる。
GW前に、まず一つだけ覚えておきたい。疲労が溜まっているなら、休みでしか取れない。短い昼寝でも、運動でも、食事でも回復しきれないのが脳の疲労である。GWは、その回復のために存在する。
相談スタイル4タイプ —— あなたはどれに近いか
適応の途中で詰まったとき、最も大きな分かれ道は「人に相談できるか」だ。相談ができる人は回復が早い。相談ができない人は、糸が切れたあとに長く立ち上がれない。これは精神医学の領域でも明確に支持されている知見である(Cohen & Wills, 1985 ほか)。
ただ、「相談しよう」と言われてもできないのが人間である。なぜできないかは、人によって理由が違う。自分のスタイルを知ると、対策が見えやすい。童話・物語の主人公にたとえて、4つのタイプを紹介する。自分が一番近いものを一つだけ選んでほしい。
A. 桃太郎タイプ —— 困ったら仲間を集める
困難を前に、「ちょっと助けて」と声をかけられる。自分一人では無理だと自覚した時点で、犬・猿・キジを集める判断ができる。強みは適応のスピードが速いこと。弱みは、頼りすぎて相手のリソースを見落とすことがある点。GW明けは、自分から声をかけつつ、相手の負担にも気を配るとさらに強い。
B. シンデレラタイプ —— 黙って耐える
つらくても、頼まれたことを黙々とこなす。「言わずに頑張る」が美徳だと思っている。誰かが気づいて、王子様(救助者)が来てくれることを期待してしまう。強みは責任感が強く、信頼を集めやすいこと。弱みは、限界まで耐えてから倒れることがある点。気づかれない努力は、続けてはいけない。GW中に「誰に何を伝えるか」を、紙に書き出してみるとよい。
C. 人魚姫タイプ —— 伝えたいのに、言葉が出ない
不調に気づいてはいる。相談したい気持ちもある。しかし、いざ口を開こうとすると、言葉が出ない。「こんなことで相談していいのか」「相手の時間を取って申し訳ない」と思ってしまう。強みは共感力が高く、人の状態によく気づけること。弱みは、自分の話を後回しにしてしまう点。最初の一言は「今、5分だけいいですか」で十分だ。GW中に、その一言だけを声に出して練習しておくとよい。
D. 一寸法師タイプ —— 一人で全部解決しようとする
「自分のことは自分で」が信条。相談すること自体を「敗北」と感じてしまう。問題は自力で解決する、それが美徳だと思っている。強みは独立心と問題解決能力が高いこと。弱みは、自分の盾と剣のサイズに気づかない点。一寸法師は針の刀一本では、本当は鬼に勝てない。助けを借りるのは、敗北ではなく戦略である。
どのタイプにも、優劣はない
4つのタイプに優劣はない。性格・育ち・過去の経験で、相談スタイルは形成される。問題なのは、自分のスタイルを知らないまま、5月を迎えることだ。
特に入社直後の新入社員にとって、「一匹狼」は適応の確率を下げる。理由は、新しい環境では情報・人間関係・暗黙のルールを、一人で組み立てるには時間がかかりすぎるからだ。最初の3〜6ヶ月は、自分の手札に「相談先」を一つでも多く持っている人ほど、長く走れる。
GW中にやっておきたいこと
まず、明日からできること
眠る。最初の数日は、睡眠時間が足りていない可能性が高い。普段より2時間長く寝る日を作る。動かない時間を作る。スマホもオフにする。脳の疲労は、何もしない時間でしか回復しないことがある。自分のタイプ(A〜D)を一つ書き留める。GW明けに「最初の一言」を誰に言うか、3人だけ名前を挙げる。
時間と環境があるなら、もう一歩
GW中に一度、信頼できる人と話す。家族でも、学生時代の友人でも、社外のメンターでも構わない。職場の話を、職場の外の人にする。「今、自分は何に疲れているか」を書き出す。仕事の中身、人間関係、通勤、体力——どこに疲労が溜まっているかを言語化する。GW明けの初日の動きを決めておく。何時に起きて、何を食べて、何時に家を出るか。決めておくと、当日の判断負荷が減る。
管理職・人事の方へ —— GW前にできる声かけ
新入社員を預かる側にも、GW前にできることがある。連休前最終日の夕方、評価ではなく心配のニュアンスで一言かけてほしい。
「1ヶ月、お疲れさま。GWはちゃんと休んでね。何かあったら、明けに話を聞くから。」
この一言があるだけで、新入社員の「相談していい」という感覚は明確に変わる。事業者には労働者の心身の健康に対する安全配慮義務がある(労働契約法第5条)。これは法的義務であり、現場の管理職が果たす責任の一部である。
次回予告 —— GWが終わる前に
本シリーズ第2回では、GWが終わる前に読んで欲しいこととして、布団から出られない朝に身体と心が出している救難信号と、その対処を扱う。「最初の一言」を、誰にどう言うかを整理する。
参照元
- 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針、平成18年3月策定・平成27年11月30日改正)
- 厚生労働省「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」https://kokoro.mhlw.go.jp/
- 労働契約法 第5条(安全配慮義務)
- 労働安全衛生法 第69条(健康保持増進の措置)
- ICD-10 F43.2「適応障害」(世界保健機関)
- Cohen, S., & Wills, T. A. (1985). Stress, social support, and the buffering hypothesis. Psychological Bulletin, 98(2), 310-357.
- 独立行政法人 労働者健康安全機構(JOHAS)地域産業保健センター:https://www.johas.go.jp/