「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」をステップごとに解説|第4回・最終回(全4回)〔プライバシーの保護〕 |
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休職者の診断名の共有範囲と、健康情報の取扱いルール|職場復帰支援の手引き プライバシーの保護 解説(WELD)

休職者の診断名の共有範囲と、健康情報の取扱いルール

手引きの全体像この手引きは、5つのステップでできている

厚生労働省のガイドライン「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下、手引き)は、心の健康問題で休業した社員の職場復帰支援を、会社が組織的・計画的に行うための事業場向けマニュアルです。休業の開始から復帰後のフォローアップまでを、次の5つのステップで示しています。

手引きの5つのステップ

職場復帰支援の流れ(図2)
本記事 5つのステップすべてに共通する土台(健康情報の扱い)  出典:手引き「図2 職場復帰支援の流れ」

本記事が扱うのは「5 プライバシーの保護」——5つのステップと並ぶ独立の章であり、全ステップを下支えする土台です。本人の健康情報を、誰が・何を・どこまで扱ってよいかを整理します。

診断書、主治医の意見、面談で聞いた生活の様子、産業医の意見書。第1〜3回で見てきた5つのステップのすべてに、本人の健康情報が流れています。そして人事の現場で繰り返し挙がる悩みは、ここに集まります——「本人に何を聞いていいのか」「上司にどこまで伝えていいのか」「診断名は共有すべきなのか」。手引きはこの問いに、独立した章を立てて答えています。そしてその答えは、多くの方の予想と少し違うかもしれません。

この記事で分かること

  • ✓社員の診断名を、誰まで共有してよいかがわかる——上司に必要なのは診断名ではなく「何を配慮するか」です
  • ✓本人・主治医・家族から情報を集めるときの、同意の取り方がわかる(包括同意1枚では足りません)
  • ✓健康情報の保管・共有ルールを、何から作ればよいかがわかる

プライバシーの保護|原則必要最小限と、目的の限定

手引きの出発点は明確です。復職支援で扱う健康情報等の内容は必要最小限とし、職場復帰支援と事業者の安全配慮義務の履行を目的とした内容に限定すべきとされています——目的の外にある情報は、そもそも集めません。

健康情報は個人情報の中でも特に機微な情報であり、とりわけメンタルヘルスに関する情報は慎重な取り扱いが必要とされています。見落とされがちな指摘もあります——同僚や上司からの「気づき情報」(あの人、最近様子が違う)も、提供した本人にとっての個人情報であり、慎重な取り扱いが必要です。

プライバシーの保護|同意の取り方包括・黙示ではなく、個別・明示

主治医や家族から情報を収集するときは、あらかじめ利用目的とその必要性を明らかにして本人の承諾を得ます。手引きは同意の質まで指定しています——包括的・黙示的ではなく、個別に明示の同意を得ることが望ましい、とされています。入社時の包括同意書1枚で休職中の医療情報まで賄う運用では、この水準には届きません。

情報は本人から提出を受けることが望ましい、とされています。本人を経由することがプライバシーの保護になると同時に、本人に伝わらないまま情報が動くことへの不信——それ自体が復職を妨げます——を防ぐからです。第三者への提供にも、原則として本人の同意が要ります。

様式例1「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」
様式例1「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」 主治医への照会の書式です。本人の同意欄が組み込まれており、個別・明示の同意という原則を書式の形にしたものです。
出典:厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(パンフレット「Return」・2024年6月版)

さらに、手引きには臨床的に重要な配慮が書かれています。心の健康問題の症状によっては、日常の細かな選択や決定に大きなストレスを伴うことがあり、同意の諾否を求めること自体に一定の配慮が必要とされています——同意書を渡して終わり、にはならないということです。だからこそ、同意の取り方や手続きは、あらかじめ衛生委員会等の審議を踏まえて定め、周知しておくことが求められます。

プライバシーの保護|共有する情報の範囲疾患名は、共有すべき情報に必ずしも含まれない

上司に必要なのは、診断名ではありません。「何を配慮するか」です。

本記事の核心です。手引きは、心の健康問題を示す疾患名は誤解や偏見を招きやすいことから、特に慎重な取り扱いが必要と明記しています。そして主治医との連携の章では、関係者の理解を得るために必要なのは病態や機能に関する最小限の情報であり、具体的な疾患名は必ずしもこれに含まれない、とまで書いています。

つまり、上司に必要なのは診断名ではありません。「残業を禁止する」「顧客対応を当面外す」「突発の休みが続いたら人事に連絡する」——何を配慮するかです。診断名を知らなくても、配慮は実行できます。

このために手引きが求めるのが、情報の一元管理です。健康情報は産業医等その他あらかじめ定めた特定の部署で一元的に管理し、業務上必要と判断される範囲に限って、必要とする方に提供します。その際、管理部署は情報をそのまま渡すのではなく、専門的立場から集約・整理・解釈するなど適切に加工して渡します——「うつ病で通院中」ではなく「当面、残業禁止・出張制限が必要」に翻訳するのが、産業医等の調整役としての仕事です。

日常の連絡でも原則は同じです。病状は聞かない。事実と手続きを扱う。「調子はどうですか。いつごろ戻れそうですか」は、善意であっても病状の質問と復帰の催促を同時にしてしまいます。「傷病手当金の書類の件でご連絡しました。手続きで困っていることはありませんか。次は◯月◯日ごろご連絡します」——事務を軸に、困りごとを開き、次を予告します。伺ってよいのは手続きに必要な事実であって、診断の中身ではありません。

プライバシーの保護|体制とルール漏洩の防止と、ルールの策定

残る2つの原則も実務に直結します。漏洩等の防止措置——健康情報を扱う方への教育・研修、そしてEAPなど外部機関を活用する場合には、その機関にもプライバシー保護の方策を求めること。取り扱いルールの策定——衛生委員会等の審議を踏まえて一定のルールを定め、関連文書の書式・取り扱い・保管方法まで決めて、関係者に周知すること。

法令面の土台も整理しておきます。労働安全衛生法第104条は心身の状態に関する情報の適正な取り扱いを事業者に義務づけており、平成30年には「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」が公示されて、取扱規程の策定手順が示されました。健康情報は個人情報保護法の要配慮個人情報にも当たり、取得には原則として本人の同意が要ります。手引きの原則は、これらの法令・指針と地続きです。

プライバシーの保護|共通現場で実際に詰まるところ

  1. 1上司が本人に診断名を聞いてしまう。悪意ではなく「診断名が分からなければ配慮できない」という誤解によるものです。必要なのは配慮の内容であって診断名ではない、という原則を管理職研修で共有します。
  2. 2メールと口頭で情報が広がる。診断書がスキャンされて複数部署に転送され、誰が何を知っているか把握できていない——一元管理とは逆の状態です。保存場所と閲覧権限を決めます。
  3. 3同意が「入社時の包括同意」1枚で済まされている。主治医への照会・家族からの聴取は、その都度、目的を明示した個別同意を取ります。様式例1に本人同意欄が組み込まれているのは、この原則の具体化です。
  4. 4外部委託先の管理が抜ける。EAP・健診機関・復職支援サービスに情報を渡す場合の、契約上の保護措置と返却・破棄のルールです。委託先の監督は個人情報保護法上の事業者の義務でもあります。

4つに共通するのは、ルールがないまま善意で運用されているという点です。だからこそ手引きと平成30年指針は、扱いを規程として決めておくことを求めています。

健康情報の扱いで、整理すること(全期間共通)

まとめ(全4回 完結)

手引きを片手に、休職から復職までの流れを、一度自社のプロセスとして整理してみてはいかがでしょうか。

プロセスの図面はすでに公開されており、書式まで揃っています。健康情報の扱いは、その全体を支える土台です。整理の過程で迷う箇所があれば、それはおそらく、貴社に固有の論点です。

参照元一覧

  • 厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月策定、平成24年7月改訂)5 プライバシーの保護、6(1)、様式例1 https://kokoro.mhlw.go.jp/guideline/files/syokubahukki_h24kaitei.pdf
  • 厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(パンフレット「Return」・2024年6月版)p.8〜9 職場復帰支援事例、様式例 https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf
  • 労働安全衛生法第104条(心身の状態に関する情報の取扱い)
  • 「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成30年9月7日公示)
  • 個人情報保護法(要配慮個人情報・委託先の監督)
  • ※個別の規程整備や紛争性のある事案への適用は、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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本シリーズについて|いま読んでいる場所

本シリーズは、厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年策定・平成24年改訂)の解説シリーズです。手引きは、心の健康問題で休業した労働者の職場復帰支援を、会社が組織的・計画的に行うための事業場向けマニュアルで、会社はこれを参考に、衛生委員会等での調査審議を経て自社の「職場復帰支援プログラム」を策定することが求められています。本シリーズでは、手引きの5つのステップとプライバシー保護の章を、実務の詰まりどころとあわせて全4回で扱います。

こんな方へ:人事・労務の担当者(制度はあるが運用手順が決まっていない)/管理職(休職中の社員への連絡や配慮に迷う)/休職中・休職を考えている社員(自分の休職と復職がどんな流れで扱われるのか知りたい)

  1. 第1回休職開始時の会社の対応と、休職中の連絡ルール第1〜2ステップ
  2. 第2回復職可否の判断基準と、職場復帰支援プランの作り方第3ステップ
  3. 第3回復職の決定手続きと、復職後のフォローアップ第4〜5ステップ
  4. 第4回休職者の診断名の共有範囲と、健康情報の取扱いルール本記事プライバシーの保護

共通資料:復職までの道のりマップ(本人と会社の2つの視点で全体像を1枚にした図)

WELD 編集部

休職・復職の実務 第4回・最終回(全4回)