「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」をステップごとに解説|第2回(全4回)〔第3ステップ〕
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復職可否の判断基準と、職場復帰支援プランの作り方|職場復帰支援の手引き 第3ステップ解説(WELD)

復職可否の判断基準と、職場復帰支援プランの作り方

手引きの全体像この手引きは、5つのステップでできている

厚生労働省のガイドライン「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下、手引き)は、心の健康問題で休業した社員の職場復帰支援を、会社が組織的・計画的に行うための事業場向けマニュアルです。休業の開始から復帰後のフォローアップまでを、次の5つのステップで示しています。

手引きの5つのステップ

職場復帰支援の流れ(図2)
本記事 枠で囲んだステップ  出典:手引き「図2 職場復帰支援の流れ」

本記事が扱うのは第3ステップ(職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成)です。手引き自身がこのステップを「職場復帰支援の手続きにおいて中心的な役割を果たす」と位置づけ、最も多くの分量を割いています。

前回(第1回)の終わりで、主治医の復職診断書が提出されました。手引きは、ここで注意を促していました。主治医の「復職可」は日常生活における病状の回復程度による判断が多く、職場で求められる業務遂行能力の回復とは限りません。では、会社は何を集めて、何を見て、復職可否を判断すればよいのか。その答えが第3ステップです。手引きがこのステップに最も多くのページを割いているのは、それだけ手順が細かいためです。

この記事で分かること

  • 主治医の「復職可」が出たとき、そのまま復帰日を決めてはいけない理由と、代わりに踏む手順がわかる
  • 復職前の面談で何を確認すればよいか。手引きの評価項目(睡眠・通勤・集中力・疲労回復)をそのまま使える形でわかる
  • 再発と紛争を防ぐ復職プランに、何を書くべきかがわかる

第3ステップ|判断の前提なぜ二段階なのか:三者のゴールの認識の違い

復職は、主治医の「復職可」(診断書)と、会社としての判断。この二段階で決まります。なぜ一段階で決められないのか。復職の場面では、三者がそれぞれ別のゴールを見ているためです。主治医のゴールは症状の軽減と生活の回復。本人のゴールは戻ることです。そこには経済的な事情や焦りも含まれます。会社が確認すべきことは業務遂行能力です。誰も間違っていません。ゴールが揃っていないだけです。

主治医は、その職場を見たことがありません。診察室にある職場の情報は本人が話したことだけで、本人は症状と業務との関係をうまく言葉にできないことが多くあります。症状が改善しても集中力や疲労への耐性の回復が遅れることは臨床上よく知られており、業務の要求度が高い職場ほど、このずれは大きく出ます。第3ステップの手続きは、このずれを埋めるためにあります。

この三者の関係を1枚にすると、次の図になります。3つのゴールは揃っていません。第3ステップは、それを「業務と生活を両立して、続けられるか」という復職の基準に揃えるための手続きです。

3つの「復職できる」と復職の基準 この基準に揃える手続きが第3ステップ。鍵は、情報の収集と評価、そして可否の判断 本人 早く戻りたい (経済的な事情・焦りも含む) 主治医 症状と日常生活の 回復を診ている 会社 業務と生活を両立できるかを 確認したい 揃える先—復職の基準 「業務と生活を両立して、続けられるか」 前提は、症状が悪化しないこと。業務は、生活や病状を崩す方向にも働きうる 出典:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」第3ステップ・様式例1をもとにWELDが整理 (図の構成はWELDによる) © 2026 WELD Consulting Group WELD

第3ステップ|(1) 情報の収集と評価4つの方向から見る

復職できるかを判断する材料は、1か所からは揃いません。手引きは、本人の意思・主治医の意見・本人の状態・職場環境という4つの方向から情報を集め、あわせて評価するよう求めています(必要に応じて家族からも)。手引きの項目記号(ア〜オ)に沿って見ていきます。

(ア)本人の意思。復職の意思と就業意欲の確認、そして職場復帰支援プログラムについての説明と同意です。手続きの説明抜きに評価だけ始めると、本人には試験のように見えます。

(イ)主治医からの意見。診断書だけで足りない場合は、本人の同意を得たうえで、産業医等が主治医から意見を収集します。使うのは様式例1「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」です。この書式には本人の同意欄が組み込まれており、発症から初診までの経過・治療経過・現在の状態・就業上の配慮への意見を依頼します。費用負担は、事前に主治医と取り決めておきます(6(1))。

様式例1「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」
様式例1「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」 産業医から主治医へ。本人の同意欄(本人記入)が下部に組み込まれている。
出典:厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成24年7月改訂・リーフレット版)

(ウ)本人の状態。治療状況と病状の回復状況に加え、手引きは業務遂行能力の評価項目を具体的に挙げています。適切な睡眠覚醒リズム、昼間の眠気の有無、注意力・集中力、安全な通勤の可否、業務と類似した行為の遂行状況とその疲労の回復具合(読書やコンピュータ操作が一定時間集中してできること等)、家事・育児・趣味活動の実施状況です。希望する復帰先や配慮など、本人の考えも聞きます。

(エ)職場環境。業務と本人の能力・意欲の適合性、人間関係、業務量や質などの作業管理の状況、職場側の受け入れ準備です。本人だけを評価して職場を評価しないと、片側だけを見た評価になります。(オ)として、必要に応じ家族からの情報も集めます。ただし、第三者からの収集はプライバシーへの十分な配慮が前提になります(第4回でくわしく扱います)。

第3ステップ|(2) 職場復帰の可否の判断「業務と生活を両立して、続けられるか」

症状が消えたか、ではありません。業務と生活を両立して、続けられるか、です。

手引きは、定型的な判断基準を示すことは困難として総合判断を求めつつ、例を挙げています。

  • 労働者が復職に十分な意欲を示している
  • 通勤時間帯に、一人で安全に通勤できる
  • 設定された勤務日に、継続して就労できる
  • 業務に必要な作業をこなせる
  • 作業による疲労が、翌日までに十分回復する
  • 適切な睡眠覚醒リズムが整い、昼間の眠気がなく、注意力・集中力が回復している

一貫して見ているのは、症状の有無ではなく、業務と生活を両立して続けられるかです。生活は働くことの基盤であると同時に、業務のほうが生活や病状を崩す方向に働くこともあります。そのため「業務に耐えられるか」と「生活が保てるか」の両方を、悪化させないことを前提に確かめます。

この基準を、復職を考えている社員本人の側からどう準備すればよいか。本人向けの資料は、別の記事で取り上げます。

なお手引きは、復職可否をめぐって多くの判例があり、職種を限定した契約か否かで判断が分かれることを注記し、法律専門家等への相談を勧めています。産業医のいない50人未満の事業場では、主治医との連携と、地域産業保健センター等の事業場外資源を活用して判断を進めます。

第3ステップ|(3) 職場復帰支援プランの作成段階と水準を明記する

復職可能と判断されたら、プランを作成します。求められている内容は明確です。元の就業状態に戻すまでに段階を設定し、各段階の内容と期間、そして各段階で求められる水準(定時勤務が可能、顧客との折衝が可能など)を明記します。盛り込む項目は、職場復帰日、管理監督者による就業上の配慮(業務内容・量の変更、残業・交替勤務等の制限)、人事労務管理上の対応(配置転換・勤務制度変更の要否)、産業医等の意見、フォローアップの方法と就業制限を見直すタイミング、すべての配慮が不要となる時期の見通し、本人が自ら行う事項、試し出勤制度等の利用の検討です。

手引きは、ここでも注意を添えています。本人の希望のみによってプランを決定することが、円滑な復職につながるとは限らない。焦りは回復の一部であり、希望を聞くことと、希望どおりに決めることは別です。話し合いの結果は様式例2「職場復帰支援に関する面談記録票」等に記録し、関係者が互いに確認しながら進めます。

様式例2「職場復帰支援に関する面談記録票」
様式例2「職場復帰支援に関する面談記録票」 経過・主治医の意見・評価・プラン検討事項・可否・次回面談までを1枚に記録します。
出典:厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成24年7月改訂・リーフレット版)

第3ステップ共通現場で実際に詰まるところ

  1. 1診断書だけで決めてしまう。情報の収集と評価を省くと、復職の判断を支える根拠が薄いままになります。再燃したとき、いちばん困るのは本人です。
  2. 2評価が面談1回の印象論になる。手引きの評価項目は、そのままチェックリストにできる具体性があります。面談の型として、そのまま使えます。
  3. 3プランが「復帰日」だけになる。段階も水準も見直し時期もないプランは、復帰日を決めただけの書面になります。
  4. 4準備期間が取られない。手引きは、復職前の面談等に十分な準備期間の設定を求めています。休職期間の期限が迫ってから慌てて判定する状況は、第1回で扱った満了日からの逆算計画があると、避けやすくなります。

4つに共通するのは、情報の収集・評価と記録を省いたときに起きるという点です。手引きが第3ステップに最も多くの分量を割いているのは、ここが省略されやすい場所のためです。

復職前に、整理すること

まとめ

復職可否の判断は、症状ではなく「業務と生活を両立して、続けられるか」を、4つの方向から確かめる手続きです。

可否の判断とプランができたら、残るは事業者としての最終決定と、復帰後のフォローアップ。手引きの最終ステップは、復職ではありません。次回は、その話をします。

参照元一覧

  • 厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月策定、平成24年7月改訂)第3ステップ、6(1)(2)、様式例1・2 https://kokoro.mhlw.go.jp/guideline/files/syokubahukki_h24kaitei.pdf
  • 労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
  • 地域産業保健センター(産業保健総合支援センター地域窓口):50人未満の事業場向け無料相談
  • ※認知機能(集中力等)の回復の遅れに関する記述は、臨床研究で報告されている知見に基づく一般的な記述です。個別の判断は、主治医・産業医の医学的評価によります。
  • ※復職可否の判断は判例の蓄積がある領域です。紛争化しうる場合は、法律専門家にご相談ください。

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本シリーズについて|いま読んでいる場所

本シリーズは、厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年策定・平成24年改訂)の解説シリーズです。手引きは、心の健康問題で休業した労働者の職場復帰支援を、会社が組織的・計画的に行うための事業場向けマニュアルで、会社はこれを参考に、衛生委員会等での調査審議を経て自社の「職場復帰支援プログラム」を策定することが求められています。本シリーズでは、手引きの5つのステップとプライバシー保護の章を、実務の詰まりどころとあわせて全4回で扱います。

こんな方へ:人事・労務の担当者(制度はあるが運用手順が決まっていない)/管理職(休職中の社員への連絡や配慮に迷う)/休職中・休職を考えている社員(自分の休職と復職がどんな流れで扱われるのか知りたい)

  1. 第1回休職開始時の会社の対応と、休職中の連絡ルール第1〜2ステップ
  2. 第2回復職可否の判断基準と、職場復帰支援プランの作り方本記事第3ステップ
  3. 第3回復職の決定手続きと、復職後のフォローアップ第4〜5ステップ
  4. 第4回休職者の診断名の共有範囲と、健康情報の取扱いルールプライバシーの保護

共通資料:復職までの道のりマップ(本人と会社の2つの視点で全体像を1枚にした図)

WELD 編集部

休職・復職の実務 第2回(全4回)