職場の熱中症対策──特集ページ公開と、6月の備え

今年も、暑い季節が近づいてきました。気温だけでなく湿度も高い日本の夏は、屋外でも室内でも、体への負担が想像以上に積み重なります。「まだ6月だから」と感じているうちに、体のほうが追いついていないことがあります。WELDでは、職場でそのまま使える熱中症の特集ページを公開しました。あわせて、6月のうちに整えておきたい組織的な備えを、簡潔にまとめます。

この記事で分かること

  • 熱中症を疑う症状の3段階と、「迷ったら119」の判断基準
  • 体が暑さに慣れる「暑熱順化」には7〜14日かかり、順化前の今(6月)が最も危ない
  • 2025年6月施行の改正労働安全衛生規則に基づき、6月までに整える報告体制と冷却の段取り

まず、暑さは「気合い」で乗り切るものではない

毎年のことだから、と身構えずにいると、いちばん危ないのは「まだ慣れていない体」です。前日まで涼しかったのに急に気温が上がった日、梅雨明け最初の猛暑日、連休明けに作業を再開した日——こうしたタイミングで熱中症は起こりやすくなります。本人は「少し疲れただけ」と感じていることも多く、まわりが気づいたときには進んでいる、ということが起こります。

暑さへの強さは、体質や根性の問題ではありません。準備と環境で、リスクはかなり下げられます。

熱中症を疑う症状

日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」は、重症度を3段階で整理しています。

  • I度(軽症):めまい・立ちくらみ、筋肉のこむら返り、大量の発汗。→ 涼しい場所で休み、水分・塩分を補給。
  • II度(中等症):頭痛・吐き気・嘔吐、ぐったりして力が入らない、自分で水が飲めない。→ 医療機関の受診を。
  • III度(重症):呼びかけへの反応が鈍い・会話がおかしい、けいれん、体が触れないほど熱い、自分で立てない。→ 生命に関わります。

救急車を呼ぶ判断 ──「迷ったら119」

判断に迷ったときの原則はシンプルです。III度を疑う症状(意識がおかしい・けいれん・自力で水が飲めない・立てない)が一つでもあれば、迷わず119番。救急車を待つあいだも、涼しい場所へ移し、首・わきの下・脚の付け根を冷やし続けてください。

迷う時点で、それは呼ぶべき状態です。

「呼んでいいか分からない」というためらいが、対応を遅らせます。なお、緊急かどうか判断に迷う段階では、救急安心センター事業(#7119)に電話相談できます(実施地域のみ)。

暑熱順化 ──体は7〜14日かけて夏に慣れる

人の体は、暑さに少しずつ慣れることができます。これを暑熱順化(しょねつじゅんか)と呼びます。慣れると発汗量が増えて体温調節が効きやすくなり、同じ気温でも熱中症リスクは大きく下がります。ただし、慣れるまでには1〜2週間(7〜14日)かかります。

つまり、順化が済む前の時期=今(6月)が、いちばん危ないということです。最初の1〜2週間は、作業時間を短めに、休憩と水分を多めに。これは個人の心がけというより、職場の段取りの問題です。

特集ページを公開しました

職場でそのまま使える熱中症の特集ページを公開しました。症状の3段階チェック、応急処置の手順、119番の多言語対応、外国籍の方向けの医療リソースまでをまとめています。スマートフォンでも見やすく、朝礼や掲示でそのまま共有できます。

▶ 熱中症特集ページを見る

組織として、6月までに整えておきたいこと

ここからは「個人で気をつける」の先、職場の仕組みの話です。特にリスクが偏りやすい3つの立場と、6月のうちに済ませたい準備を挙げます。

① 屋外・半屋外の作業

建設・配送・農作業などの屋外作業は、直射日光と身体活動が重なり、負荷が大きくなります。見落とされがちなのが、屋根はあっても外気と通じている作業場(半屋外)——倉庫の積み下ろし口、ピロティ、開放型の工場、車両の荷台まわりなど。「室内だから大丈夫」という思い込みが、対策の空白を生みます。

② 高年齢労働者

満65歳以上の方は、のどの渇きを感じにくく、体温調節の力も落ちます。屋内でも熱中症になります。救急搬送の多くを高齢者が占め、発生場所は住居内が最も多いというデータもあります。エアコンの使用をためらわせない雰囲気づくりと、定時の声かけ・水分補給が有効です。

③ 派遣・アルバイト・パート、短期・スポットの就労者

入って日が浅い人は、暑熱順化が済んでいないうえに、職場の休憩ルールや「無理しない」文化をまだ知りません。「言い出しにくくて我慢した」が起こりやすい立場です。初日のオリエンテーションで、休憩・水分・体調報告のルールを最初に伝えることが、いちばん効きます。

④ 6月に行うべき組織的な準備(法令対応を含む)

まず、下のチェックリストで自社の作業と備えを点検してください。そのうえで、各項目の背景を解説します。

チェックリスト:自社の作業と備えを点検

当てはまる項目にチェックすると、優先度の目安が表示されます。印刷して現場でお使いいただけます。

STEP 1 暑さの基準(対策義務の対象か)

→ 両方に当てはまる作業は、改正労安則の対策義務の対象です。

STEP 2 作業環境(見落としやすい半屋外に注意)

STEP 3 特に配慮が必要な人

STEP 4 備えの点検(できていないものにチェック)

※ 本チェックは自己点検の目安です。具体的な体制設計は産業医・産業保健職にご相談ください。50人未満の事業場は地域産業保健センター(無料)も利用できます。

解説:改正労働安全衛生規則で求められること

2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、一定の暑熱作業について、事業者には次の整備が義務づけられています。

  • 報告体制の整備と周知(第612条の2):作業者本人が自覚症状を訴えたとき、または「熱中症のおそれがある人」を周囲が見つけたときに、速やかに報告できる体制を作り、作業者に周知すること。
  • 悪化防止措置の手順策定・周知:作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察など、症状を悪化させないための措置と手順をあらかじめ定め、作業者に周知すること。
  • 対象の目安:WBGT(暑さ指数)28度以上、または気温31度以上の作業場で、継続1時間以上または1日4時間を超えて行われる見込みの作業。

まずは難しく考える必要はありません。「誰が・誰に・どう報告するか」を紙1枚にまとめて掲示する——これだけで、法令が求める「体制整備・周知」の出発点になります。あわせて、環境省の暑さ指数(WBGT)メール配信に登録して危険な日を朝礼で共有すると、現場の判断がそろいます。産業医の選任義務がない50人未満の事業場は、地域産業保健センター(無料)で健康相談を受けられます。

そのうえで体制を本格的に整えるなら、WBGTの実測、作業休止基準と休憩スケジュールの明文化、産業医・産業保健職による事前確認と緊急時フローの整備まで進めると安心です。ただし、すべてを一度にそろえる必要はありません。報告と冷却の段取りから始めれば十分です。

まとめ

熱中症は、気合いではなく準備と環境で防げます。症状の3段階と「迷ったら119」を共有し、順化の済んでいない6月のうちに、報告と冷却の段取りを紙1枚で決めておく——まずはそこからで十分です。詳しくは特集ページをご覧ください。

▶ 熱中症特集ページを見る

参照元

  • 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」 https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf
  • 環境省「熱中症環境保健マニュアル2018」 https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf
  • 総務省消防庁「熱中症による救急搬送状況」 https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/
  • 厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001476821.pdf
  • 厚生労働省労働基準局長通達「基発0520第6号(令和7年5月20日)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001490909.pdf