「自社の60歳以上は健康である」を、どう確かめるか。

高年齢者の労働災害防止対策に取り組んでいない理由として最も多かったのは、「自社の60歳以上の高年齢労働者は健康である」でした。48.1%です。この判断は、多くの場合、日常の様子を見た印象に基づいています。指針の通達には、印象ではなく測るための様式が添えられています。

この記事で分かること

  • ✓フレイルを2つの質問で捉える方法と、転倒リスクとの関係
  • ✓転倒等リスク評価セルフチェック票の3部構成(計測・質問票・レーダーチャート)
  • ✓計測と自己認識のずれが示すもの。5つの典型的なパターン

「健康である」は、何を見た判断か

高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会は、48.1%という回答を「身体機能の低下による労働災害のリスクへの理解が進んでいない状況」と受け止めています。同時に、文献のレビューも行いました。

検討会が引いた研究

  • 筋骨格系障害、聴覚障害、視覚障害などの慢性の健康問題がある労働者は、労働災害のリスクが約1.48倍高まる
  • 50歳以上を対象とした研究では、仕事の要求度と身体能力にずれがある場合に、災害のリスクが高い
  • 在宅勤務が長く続いて身体機能が低下した人、運動の習慣がない人は、災害のリスクが高まる
  • 筋力トレーニングにより下肢の筋力とバランス力の両方が改善し、運動により腰痛による欠勤を予防できる(システマティックレビュー、メタ解析)

厚生労働省 高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会 報告書(令和7年12月26日)

健診で異常がなく、休まず出勤していれば、健康だと見えます。ただ、そこで見えているのは印象であり、測った値ではありません。

フレイルは、2つの質問から見えます

フレイルは、加齢によって心身の予備の力が落ちた状態を指します。病気とまではいえないものの、少しの負荷で転倒や体調不良につながりやすくなります。

報告書に引かれている研究では、次の2つの質問を含む書面の評価でフレイルの状態を見ています。

フレイルを評価する2つの質問

  • 1過去6か月で、意図せず2kg以上の体重減少があったか
  • 2過去2週間に、理由なく疲れを感じたか

厚生労働省 高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会 報告書

この2つに当てはまる人は、就業中の転倒リスクが約1.7〜1.9倍に上がることが示されています。年齢、性別、職務に関わる要因をすべて調整したうえでの数字です。

体重が半年で2kg減ったことと、なんとなく疲れが取れないこと。どちらも本人が申し出なければ職場からは見えません。健診の結果にも、体重の推移を追わなければ表れにくいものです。

指針の通達も、リスクアセスメントを行う際にフレイルやロコモティブシンドロームについても考慮する必要があると書いています。

筋肉の量と力が落ちた状態であるサルコペニアについては、報告書がアジアサルコペニアワーキンググループの診断アルゴリズム(AWGS 2025)に簡易な評価の手法が示されていることに触れ、産業の場面においても評価は可能と考えられるとしています。

セルフチェック票は、3部でできています

指針は、主に高年齢者を対象とした体力チェックを続けて実施することが望ましいとしています。事業場の実情に応じて青年期、壮年期から実施することが望ましいとも書いています。身体機能の低下は20代から30代で始まる場合があるためです。

通達に添えられた様式は、Ⅰ 身体機能の計測、Ⅱ 質問票、Ⅲ レーダーチャートの3部です。

Ⅰ 5つの計測は、特別な機器を必要としません

転倒等リスク評価セルフチェック票の1ページ目。2ステップテスト、座位ステッピングテスト、ファンクショナルリーチ、閉眼片足立ち、開眼片足立ちの5項目について、計測方法の写真と5段階の評価表が掲載されている。
出典:厚生労働省「「高年齢者の労働災害防止のための指針」について」(令和8年2月10日付け基発0210第1号)別添3「転倒等リスク評価セルフチェック票」Ⅰ 身体機能計測結果

表1 5つの計測と評価1の目安

計測見ているもの評価1の目安
計測2ステップテスト見るもの歩行能力筋力評価12歩幅を身長で割って1.24以下
計測座位ステッピングテスト見るもの敏捷性評価120秒間に24回以下
計測ファンクショナルリーチ見るもの動的なバランス評価119cm以下
計測閉眼片足立ち見るもの静的なバランス評価17秒以下
計測開眼片足立ち見るもの静的なバランス評価115秒以下

指針は、体力チェックが高い負荷にならないよう十分に配慮することも求めています。測ること自体で転倒が起きては本末転倒です。実施の前に、当日の体調確認と、中止の基準を決めておくことになります。

Ⅱ 質問票は、日常の動作を9つ尋ねます

転倒等リスク評価セルフチェック票の2ページ目。身体的特性を尋ねる9つの質問と、それぞれ5段階の選択肢が掲載されている。回答を合算して5段階で評価し、レーダーチャートに記入する形式。
出典:同上 別添3「転倒等リスク評価セルフチェック票」Ⅱ 質問票(身体的特性)

「人ごみの中、正面から来る人にぶつからず、よけて歩けますか」「歩行中、小さい段差に足を引っ掛けたとき、すぐに次の足が出ると思いますか」「片足で立ったまま靴下を履くことができると思いますか」。9問は、計測と同じ5つの軸に対応しています。

Ⅲ 計測と自己認識を、同じ図に重ねます

レーダーチャートのページ。歩行能力と筋力、敏捷性、動的バランス、静的バランスの閉眼と開眼という5つの軸を持つ五角形の図と、黒枠と赤枠の大きさを比べる3つのチェック項目が掲載されている。
出典:同上 別添3「転倒等リスク評価セルフチェック票」Ⅲ レーダーチャート

この様式の要は3枚目にあります。Ⅰの計測結果を黒字で、Ⅱの質問票の結果を赤字で、同じレーダーチャートに重ねて記入します。原文は、読み方を3つ示しています。

レーダーチャートの読み方

  • 1黒枠の大きさ。大きいほど災害リスクは低い。小さい場合、特に2以下の数値がある項目は転倒などのリスクが高い
  • 2赤枠の大きさ。身体機能に対する自己認識を示す。黒枠と近いほど、自らの身体能力を的確に把握している
  • 3黒枠と赤枠の比較。黒枠が赤枠以上なら、とっさの行動で身体が思いどおりに反応すると考えられる。黒枠が赤枠より小さい場合は、自分で考えている以上に衰えている状態

厚生労働省 基発0210第1号 別添3「転倒等リスク評価セルフチェック票」

5つの典型的なパターン

原文には、出てきた形を読み解くための5パターンが並んでいます。

レーダーチャートの典型的な5つのパターン。計測結果が質問票を上回る場合、下回る場合、両者がほぼ同じで枠が大きい場合、ほぼ同じで枠が小さい場合、項目により逆転している場合の5つについて、図と解説が並んでいる。
出典:同上 別添3「転倒等リスク評価セルフチェック票」記入例

表2 計測と自己認識のずれ方 5パターン

パターン計測と質問票原文が示す読み取り
パターン1計測と質問票計測 > 質問票見方
  • 体力を慎重に評価する傾向
  • 太線が小さければリスクは高い
パターン2計測と質問票計測 < 質問票見方
  • 実際より高く自己評価
  • 急な動作を避ける
  • 足元の安全を確認する
パターン3計測と質問票ほぼ同じ枠が大きい見方
  • 現時点で問題なし
  • 本人の認識とも一致
パターン4計測と質問票ほぼ同じ枠が小さい見方
  • 身体機能も認識も低い
  • 整理整頓と危険箇所の改善
パターン5計測と質問票項目により逆転見方
  • 項目ごとのばらつきが大きい
  • 思わぬところで転倒しうる

産業医として気になるのはパターン2です。本人に自覚がないまま、身体が思いどおりに反応しない場面が生じます。面談でも、体力の低下を自分から訴える方は多くありません。

そして、この構造は「自社の60歳以上は健康である」という48.1%の回答と同じ形をしています。見えているのは認識であって、測った値ではありません。個人の自己認識と、事業場の認識に、同じずれが起こりえます。

健診に入っていない項目があります

報告書には、もう一つ気になる指摘があります。全身持久性体力は、高血圧や喫煙、糖尿病といった多くの危険因子のなかで、死亡リスクへの影響が最も強いとされています。

それにもかかわらず、重要な危険因子のなかで唯一、定期の検査項目に入っていないと書かれています。

測る方法が無いわけではありません。報告書はステップテストによる簡易な体力測定や質問紙による評価の手法が開発されていることを挙げています。向上させる手段としては、労働安全衛生総合研究所の運動プログラムツール(J-HIAT)や信州大学のインターバル速歩が、安全で効率のよいものとして挙げられています。

測った結果をどう扱うかは、事前に決めておく必要があります。健康や体力に関する情報は、労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針を踏まえた取扱いが求められます。

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