エイジフレンドリーガイドラインは、なぜ指針になったのか。
令和8年3月31日、エイジフレンドリーガイドラインは廃止されました。4月1日から適用されているのは「高年齢者の労働災害防止のための指針」です。厚生労働省はこれをエイジフレンドリー指針と呼んでいます。ガイドラインの内容は、この指針に包括されました。事業者に求められる5つの柱も、ほぼそのまま引き継がれています。変わったのは、法令の上での位置づけです。
この記事で分かること
- ✓条文に「作業環境の改善、作業の管理」が加わったこと
- ✓文書が部長名の通達から、大臣が公表する指針になったこと
- ✓国の指導・援助の規定が、新たに条文に入ったこと
6年間で、知っていた事業場は23.1%でした
エイジフレンドリーガイドラインが公表されたのは令和2年3月です。それから約4年後の調査で、「このガイドラインを知っている」と答えた事業場は23.1%でした(令和5年 労働安全衛生調査)。
取組の実施率
- 56.5%高年齢労働者の特性を考慮した作業管理
- 29.4%身体機能の低下等によるリスクのアセスメントの実施
- 25.2%身体機能の低下を補う設備・装置の導入
厚生労働省 令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)
この数字は、検討会が指針の内容を検討する際の出発点になりました。ガイドラインという形では届かなかった、という認識が前提にあります。
条文が変わりました
労働安全衛生法には、もともと高年齢者に関わる条文があります。第62条です。昭和47年の制定当時から、文言は変わっていません。
中高年齢者等についての配慮労働安全衛生法 第62条
事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たつて特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行なうように努めなければならない。
令和7年5月に公布された改正法により、この隣に第62条の2が新設されました。令和8年4月1日施行です。
高年齢者の労働災害防止のための措置労働安全衛生法 第62条の2
事業者は、高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の事業者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
3 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。
表1 第62条と第62条の2の違い
- 作業環境の改善
- 作業の管理
- その他の必要な措置
第62条が求めているのは、その人に合う場所を選んで置くことです。第62条の2が求めているのは、場所と作業のほうを変えることです。
人を動かすのか、仕事を動かすのか
この違いは、人と仕事の適応という観点から見ると、はっきりします。
「適正な配置」は、人のほうを動かす考え方です。その人の心身の条件を見て、合いそうな仕事に就いてもらう。人が仕事に適応しやすいように、人を移す。第62条が求めてきたのは、この範囲でした。
第62条の2が加えたのは、仕事のほうを動かすことです。作業環境を改善し、作業の管理を変える。つまり、仕事そのものを人に合わせにいく。適応の負担を、人だけでなく職場も引き受けます。
配置の工夫だけでは、いずれ行き場がなくなります。年齢とともに条件が変われば、合う仕事は減っていくためです。仕事の側を変えれば、同じ人が同じ職場で働き続けられます。
条文が一歩進んだのは、ここです。これまで条文にあったのは、その人に合う仕事を選ぶという「適正な配置」でした。そこに、高年齢者を対象として、作業環境や作業の管理そのものを人に合わせていくことが、企業の取り組みとして明記されました。配慮の向きが、人だけでなく仕事にも向いたということです。
文書の格が変わりました
旧エイジフレンドリーガイドラインは、基安発0316第1号という番号を持っています。労働基準局安全衛生部長が都道府県労働局長に宛てた通達です。法令に根拠となる規定はありませんでした。
新しい指針は公示です。厚生労働大臣の名前で公表され、根拠は第62条の2第2項にあります。廃止は通達で明記されました。
ガイドラインの廃止基発0210第1号(令和8年2月10日 厚生労働省労働基準局長)
なお、令和2年3月16日付け基安発0316第1号「「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」の策定について」は、令和8年3月31日をもって廃止する。
表2 旧ガイドラインと新指針の位置づけ
ただし、呼び名は引き継がれています。厚生労働省はリーフレットで、新しい指針をエイジフレンドリー指針と呼んでいます。
そのリーフレットの表題は「エイジフレンドリーガイドラインに替わる新たな指針です」です。ガイドラインという文書は無くなりましたが、内容と呼び名は指針に包括されました。
この「努力義務を法律に置き、その中身を大臣指針で定め、国が指導・援助する」という組み立ては、労働安全衛生法にすでにある形です。
第69条が健康の保持増進を事業者の努力義務とし、第70条の2が大臣指針の公表と指導を定めています。THP(心とからだの健康づくり)がその指針にあたります。高年齢者対策は、同じ形に置かれました。
指針が具体的に何を求めているかは、次の記事で扱います。
参照元
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第62条、第62条の2、第69条、第70条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- 高年齢者の労働災害防止のための指針(令和8年2月10日 高年齢者の労働災害防止のための指針公示第1号、厚生労働大臣) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00010.html
- 「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(令和8年2月10日付け基発0210第1号、厚生労働省労働基準局長) https://www.jisha.or.jp/Portals/0/resources/age-friendly/pdf/tutatu_0210.pdf
- 高年齢者の労働災害防止のための指針(エイジフレンドリー指針)を策定しました(厚生労働省リーフレット、令和8年6月) https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001702280.pdf
- エイジフレンドリーガイドライン(令和2年3月16日 基安発0316第1号、厚生労働省労働基準局安全衛生部長。令和8年3月31日をもって廃止。解説ページは公開を終えているため、厚生労働省のリーフレットを掲げます) https://www.mhlw.go.jp/content/001107783.pdf