衛生管理者、いつ・何人・誰を選ぶ? まず全体像をつかむ
会社が大きくなり、従業員が50人に近づくと、ある日「衛生管理者を選任してください」と総務に話が回ってくる。けれど、いつまでに、何人、誰を選び、どこへ何を出すのか——最初は全体像が見えないまま走り出すことになりがちだ。この連載は、はじめて衛生管理者を選任する担当者が、判断から届出まで迷わず進められるように、工程を4つに分けて解説する。第1回は出発点として、選任の全体像をつかむ。受験勉強中の方にとっても、ここは試験で最も問われる土台になる。
この記事で分かること
- ✓衛生管理者の選任義務は、常時50人以上の事業場に生じる。業種は問わない(労働安全衛生法第12条)
- ✓選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署長へ報告する
- ✓50人未満なら衛生推進者。こちらは労基署への報告は不要で、氏名の周知が必要(第12条の2)
衛生管理者の選任を、4つのステップに分けて解説する
選任という作業は、ひとつながりに見えて、実際には性質の異なる4つの工程に分かれている。先に地図を示しておく。
ステップ1は判断——自社が選任義務の対象かを確認する(本記事)。ステップ2は選定——第一種か第二種か、何人必要か、誰を選ぶか(第2回)。ステップ3は書類——選任報告書(様式第3号)を書く(第3回)。ステップ4は提出——e-Govで電子申請し、受理を確認する(第4回)。この順に進めば、選任は最後まで完結する。
「衛生管理者 選任ガイド」全4回の現在地です。
ステップ1で確認すること —— 自社は選任義務の対象か
最初の分かれ道は、自社が選任義務の対象かどうかだ。判断の基準は「常時使用する労働者が50人以上か」の一点に尽きる。ここでいう「常時」は、繁忙期の一時的な増員ではなく、日常的に使用している人数を指す。正社員だけでなく、パート・アルバイトも、継続して使用していれば原則として数に含まれる。
もうひとつ重要なのが「事業場単位」という考え方だ。労働安全衛生法は、会社全体ではなく、工場・支店・営業所といった場所ごと(事業場ごと)に人数を数える。本社が200人でも、ある支店が30人なら、その支店は衛生管理者の選任義務の対象ではない(別途、衛生推進者の対象になる)。「会社で50人」ではなく「その事業場で50人」で考える。
数えるのは会社全体ではなく、事業場ごと。判断はいつも「その場所で何人か」から始まる。
そもそもなぜ「50人」なのか
50人という数字は、労働安全衛生法が安全衛生管理体制を一段引き上げる節目として設けている。常時50人以上の事業場では、衛生管理者だけでなく、産業医の選任(第13条)と衛生委員会の設置(第18条)、そしてストレスチェックの実施も同時に義務になる。50人を超えるとは、複数の義務が一度に立ち上がるということだ。
そして、この義務に業種の例外はない。製造業でも、IT企業でも、小売店でも、医療機関でも、50人を超えれば衛生管理者を置く。業種によって変わるのは「義務の有無」ではなく、後述する「第一種・第二種のどちらの資格者が必要か」(第2回で扱う)の部分だ。
50人未満の会社でできること
では、まだ50人に満たない事業場は何もしなくてよいのか。そうではない。常時10人以上50人未満の事業場には、衛生推進者(または安全衛生推進者)の選任義務がある(労働安全衛生法第12条の2)。衛生推進者は、衛生管理者ほどの資格要件はなく、一定の実務経験や講習で選任できる、衛生の担当者だ。
衛生管理者との大きな違いは届出にある。衛生推進者は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任するが、労働基準監督署への報告は不要で、その代わり氏名を見やすい場所に掲示するなどして労働者に周知する。選任を怠れば罰則(50万円以下の罰金)の対象になり得る点は、衛生管理者と同じだ。
実務メモ — 50人未満でも産業保健の支援は受けられる
50人未満の事業場は産業医の選任義務がない。その代わり、独立行政法人 労働者健康安全機構が運営する「地域産業保健センター」で、産業医による健康相談や長時間労働者の面接指導などを無料で受けられる。人数が増えて選任義務が見えてきた段階で、早めに相談先を持っておくと、いざというときに動きやすい。
いつまでに、何をするか
選任義務の対象だと分かったら、期限を押さえる。衛生管理者は、選任すべき事由が発生した日(例:労働者が常時50人に達した日)から14日以内に選任しなければならない。そして選任したら、遅滞なく、様式第3号の報告書を所轄の労働基準監督署長へ提出する。様式第3号は、総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医をまとめて報告する共通の用紙で、産業医の選任報告と同じものだ(書き方は第3回で扱う)。
実務でつまずきやすいのは、「50人を超えてから資格者を探し始める」パターンだ。第一種・第二種の免許を持つ人が社内にいないと、14日という期限はあっという間に過ぎる。人数が増える局面では、義務が生じる前に資格者を確保しておくのが安全側の判断になる。誰をどう選ぶか、何人必要かは、次回くわしく扱う。
試験ではこう問われる
- 常時50人以上で選任義務(業種は問わない)
- 数えるのは事業場単位
- 14日以内に選任し、遅滞なく報告
- 衛生推進者は常時10人以上50人未満(労基署への報告は不要、氏名を周知)
- ポイント:数字(50・10・14)と、報告の要否(衛生管理者は要、衛生推進者は不要)の対比
次回(ステップ2)
第2回は「誰を選ぶか」。第一種と第二種のどちらの資格者が必要か、規模に応じて何人選任するか、専属・専任・衛生工学衛生管理者の要件までを整理する。自社の業種と人数から、必要な人材像を具体化していく。
本記事のご利用にあたって
本記事は、労働安全衛生法および厚生労働省・労働局等の公表情報をもとに、実務担当者向けに要点を整理した一般的な解説です。選任義務の有無・人数・記載方法・対象範囲は、事業場の規模・業種・作業内容等により異なります。実際の手続にあたっては、最新の法令と所轄の労働基準監督署・産業保健の専門家にご確認ください。最終的な要否・正誤の確認は、ご自身(各自)で行ってください。
参照元
- 労働安全衛生法 第12条(衛生管理者)・第12条の2(衛生推進者等)・第13条(産業医)・第18条(衛生委員会)/e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/
- 労働安全衛生規則 第7条(衛生管理者の選任)・第12条の2〜第12条の4(衛生推進者等)
- 厚生労働省・各都道府県労働局「安全衛生管理体制のあらまし」
- 独立行政法人 労働者健康安全機構(JOHAS)地域産業保健センター:https://www.johas.go.jp/
- 本記事は2026年6月時点の法令に基づく。選任・届出の前に、最新の取扱いを所轄の労働基準監督署で確認されたい。