01
ストレスチェック義務化 第1回
ストレスチェック法改正

「セルフケアのため」って、それ本当ですか。

50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される。2025年5月に改正労働安全衛生法が公布され、これまで「当分の間、努力義務」とされていた50人未満の事業場にも、ストレスチェックの実施が義務づけられた(改正労働安全衛生法第66条の10。施行は公布後3年以内、最長で2028年5月)。「うちもやらないといけないのか」——そう思った経営者や人事担当者は少なくないだろう。ただ、「やらないといけない」の前に、ひとつ確認しておきたいことがある。ストレスチェックは、何のためにやるのか。

この記事で分かること

  • 法的目的は「労働者本人の気づき(一次予防)」。スクリーニングではない
  • 「高ストレス者の発見」「職場分析」は付随機能か努力義務にすぎない
  • 50人未満は面接指導体制・匿名性・実施事務従事者の3つで詰まる

ストレスチェックの法的な目的は、セルフケアである

ストレスチェック制度は2015年に施行された。法律上、この制度の目的は明確に位置づけられている。

労働者自身が、自分のストレスの状態に気づく機会を提供すること。

これが法的な第一義的目的である。厚生労働省の指針でも「ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)を主な目的とする」とされている(心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針、平成27年4月15日 公示第1号)。

つまり、法が想定しているのは次のような流れだ。労働者がストレスチェックを受ける。結果を見て、自分のストレスの状態を知る。必要であれば、自分でセルフケアに取り組む。これが基本の構造である。

ここで重要なのは、ストレスチェックの結果は本人に返されるという点だ。事業者が結果を知るには、本人の同意が必要になる(労働安全衛生法第66条の10第2項)。法律は、事業者がスクリーニングのために使うツールとしてストレスチェックを設計していない。あくまで、労働者自身の気づきの機会として位置づけている。

現場が期待していることは、それとは違う

一方で、現場でストレスチェックに期待されていることは、必ずしもセルフケアの促進ではない。人事担当者に聞くと、こんな声が返ってくることが多い。

「高ストレスの人が誰か知りたい」「どの部署にストレスが溜まっているか見たい」「メンタル不調を早期に発見したい」。

これらは理解できる期待だ。しかし、法的な制度設計とはずれている。

まず、高ストレス者が誰かを事業者が知ることは、本人の同意がなければできない。高ストレス者に対する医師の面接指導も、本人が申し出て初めて実施される(労働安全衛生法第66条の10第3項)。事業者から「あなたは高ストレスだから面談を受けなさい」と指示する仕組みにはなっていない。

次に、部署ごとのストレス分布を見る集団分析は、法的には努力義務にとどまる(労働安全衛生規則第52条の14)。義務ではない。

つまり、現場が最も期待している「高ストレス者の発見」と「職場環境の可視化」は、法律上はストレスチェック制度の主目的ではなく、付随的な機能か、努力義務として位置づけられているにすぎない。

このずれが「やって終わり」を生む

目的のずれは、実施後の形骸化につながる。

セルフケアの気づきの機会が目的だと理解していれば、結果を返した後に「この結果をどう読むか」「セルフケアとして何ができるか」を伝える仕組みが必要だとわかる。しかし、多くの事業場では結果を返して終わりだ。セルフケアの方法を具体的に案内している事業場は限られている。

一方、「高ストレス者の発見」が目的だと思っていると、高ストレス者が面接を申し出なかった時点で「何もできない」という行き詰まりが生じる。実際、高ストレス者の面接申出率は低い。厚生労働省の調査でも、高ストレス者のうち面接指導を申し出た割合は数パーセントにとどまるという報告がある。

ストレスチェックを「何のためにやるのか」を整理しないまま導入すると、実施しただけで満足する状態が生まれる。これは50人以上の事業場で、すでに10年間繰り返されてきたことだ。

50人未満の事業場に、追加で詰まるところ

50人未満の事業場には、50人以上の事業場にはない固有の課題が3つある。

面接指導の体制が存在しない

50人未満の事業場には産業医の選任義務がない。高ストレス者が面接指導を申し出たとしても、面接を行う医師をどこに確保するのか。ここが最初の壁になる。

集団分析の匿名性が確保しにくい

部署が3人しかいない場合、集団分析の結果から個人が特定されるおそれがある。厚生労働省は集団分析の単位を原則10人以上としている。小規模事業場では、事業場全体で10人未満ということもあり、集団分析が物理的にできない場合がある。

実施事務従事者の確保

ストレスチェックの実施には、結果を取り扱う実施事務従事者が必要だが、人事権を持つ者は実施事務従事者になれない(労働安全衛生規則第52条の10第2項)。社長が人事をすべて担っている小規模事業場では、誰が実施事務従事者になるのかという問題が生じる。

厚生労働省は2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表し、これらの課題への対応方針を示している。外部委託の推奨、地域産業保健センターの活用がその柱だ。

まず、どこから手をつけるか

体制の有無に応じて、打ち手は次のように分けられる。いきなり全部を整える必要はない。

体制が整っているなら

外部委託+地域産保で固める

地域産業保健センターと連携し面接指導医を事前確保。実施は外部機関へ委託し、実施事務従事者と個人情報管理の負担を減らす。結果返却時に「こころの耳」等のセルフケア案内を同封。集団分析が可能な規模なら努力義務として実施し、職場環境改善につなげる。

まず、ここから

「気づきの機会」として始める

制度の法的目的に立ち返り、まずは「労働者が自分のストレスの状態を知る機会」として実施する。結果は本人のみに返す。面接指導体制の構築は翌年以降のステップとする。集団分析は人数が少なすぎる場合は無理に実施しない。

大切なのは、「義務だからやる」ではなく、「セルフケアの機会を社員に提供する」という目的を、実施する側が理解していることだ。目的が整理されていれば、実施後の「やって終わり」を避ける手がかりになる。

補足:地域産業保健センター

50人未満の事業場であれば、医師の面接指導を無料で受けられる。問い合わせ先はJOHAS(独立行政法人 労働者健康安全機構)のウェブサイトに掲載されている。

この記事のまとめ

ストレスチェックの法的目的はセルフケア(一次予防)。「高ストレス者の発見」や「職場可視化」は付随機能にすぎず、目的のずれを認識しないと「実施しただけ」で止まる。

次回は、「いつストレスチェックを実施するかで結果がどう変わるか」を取り上げる。

このシリーズの他の記事

参照元

  • 労働安全衛生法 第66条の10(ストレスチェック制度)
  • 労働安全衛生規則 第52条の9〜21(ストレスチェック制度の施行規則)
  • 心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(平成27年4月15日 公示第1号、改正平成27年11月30日 公示第3号)
  • 改正労働安全衛生法(2025年5月公布、公布後3年以内施行)
  • 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(2026年2月25日公表)
  • 厚生労働省 ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/
  • こころの耳(厚生労働省)
    https://kokoro.mhlw.go.jp/
  • JOHAS 地域産業保健センター
    https://www.johas.go.jp/
WELD編集部

WELD 編集部

ストレスチェック、年1回で何がわかるのか。第1回

次の記事へ →
← コラム一覧に戻る